「みんなでクリスマス」
「ゆきる」様より贈りもの

「それでは、指揮権限により、本件の実施を決定します」
早朝、委員長の決断が下った。

今日は12月24日。

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『みんなでクリスマス』

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普段は昼食くらいにしか使われない食堂兼調理場は、今日だけは違った賑わいを見せている。
「ハーイ、ローストチキン焼けまシタデース!」
エプロン姿のヨーコさんが次々と料理を運んでくる。プロ顔負けの出来映えだ。
脇では、速水がせっせとサンドイッチを作っている。
「あとハ中村くんノケーキだけデス。ケーキは焼き具合が命デスガ・・・アラ?中村くんハ?」
気がつくと、オーブンにかじりついていた中村の姿が見えない。

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「アァッ!クツシタがこんなにっ!ワンダフルビューティフルエクセレントォォ!!」
ツリーに飾るための靴下に、まとわりつき絡みつき埋もれるようにして岩田が悶えている。
ヨーコが靴下の山をどかしていくと、恍惚とした表情の中村が出土してきた。
「はぁ〜、サンタさんに感謝ばい・・・」
ヨーコの目が光る。手に持つナイフもキラリと光る。
「そんな男は、ハラキリデース!!」

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田辺と遠坂が、仲良くツリーに飾りをつけている。ちなみにツリーの樅の木は、先日若宮と来須が山から拝借、もとい採集してきたものだ。
銀紙の星飾り、サンタの人形、七色の電飾・・・授業の合間に作った飾りで、地味だったツリーが、どんどん賑わっていく。
サンタクロースへのお願いも多い。中には「背が伸びますように 滝川陽平」「せんせいになりたい ののみ」と、ちょっと勘違いしたお願いも多いが。
「田辺さんは、サンタにどんなお願いを書いたんですか?」
遠坂は、それとなく欲しい物を聞き出そうとする。
「私、ですか?・・・『みんなが幸せになれますように』って」
ここにも勘違いしている者が一人。
それでも、「みんなが幸せになるには金の延べ棒が何本必要なんだろう?」と本気で悩んでしまうあたり、遠坂もかなりおめでたい人間である。

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森が、持ってきた絵を壁に掛けると、周囲からおおーっと歓声が上がった。
受胎告知。聖母マリアに天使が受胎を告げる有名な場面だ。この日のために、毎晩コツコツと描き続けてきたのだ。
「へえ・・・上手いもんだな」
茜の声に、森はかなりどきっとした。
「でもこの天使、どこかで見たような顔だな」
森の心臓がさらに跳ね上がる。寝顔をモデルにしてたなんて、恥ずかしいのと下手なのとでとても言えるわけがない。
「ま、僕の方が百倍美少年だけどね」
茜のいつも通りの高飛車な調子に、森は少しほっとする。
「今度は、ちゃんと起きてる時に描いてよ。寝顔見られるの、嫌いなんだ」
こんな奴を天使になんてするんじゃなかった、と森は少し後悔した。

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「よーし、みんな準備できたかー?それじゃ、メリー・・・」
本田が音頭を取ろうとした時、
「いけませんっ!まずはお祈りからしないと・・・」
芳野が割って入った。
「まー芳野先生いいからいいから、今日は無礼講ってことで」
「そういう問題じゃ・・・」
なおも食い下がろうとする芳野の口に、本田は一升瓶を押し当てた。一丁上がり。
「それじゃ改めて、メリー・・・」
本田がマシンガンを天井に向ける。生徒たちの表情が一瞬焦る。
「クリスマース!」
ぱあん!
マシンガンの先から、紙テープと万国旗が飛び出した。
「新型クラッカーだよ。お前ら知らなかった?」
本田は、がははと笑った。

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宴が始まった後も、舞はジュースの紙コップを握ったまま呆然としていた。
「厚志・・・これは、本当に、クリスマスなのか?」
「そうだよ?まぁ正式には教会でお祈りとかするんだろうけど、日本ではどんちゃん騒ぎ、ってパターンがほとんどだよね。舞はやらなかったの?こういうこと」
速水は、舞の分まで料理を取り分けてあげながら答える。
「父は・・・こんなこと、教えてくれなかった。それに、クリスマスというと・・・」
「どんなものだと思ってたの?」
途端に、舞の顔が真っ赤になる。
「私が調べたところによると、クリスマスというのは、こ、恋人どうしが街でショッピングだの高級レストランでディナーだの、そ、そのあとホテルで・・・・」
「なあんだ」
速水は安心したように笑う。そしてそのまま舞の耳元に口を寄せ、ささやいた。
「だったらさ、この後、二人っきりでそういうクリスマスを楽しもうよ」
舞は爪先まで真っ赤になって卒倒した。

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「おおっ、どれもこれも美味いっ。ヨーコさんの料理は最高でありますっ」
若宮が、両手にそれぞれチキンを持ちながら、交互にかぶりついていた。
「むぐむぐ、ほれも、ふまいれすよ、せんふぁいっ」
滝川も負けないくらい、料理をかきこんでいる。二人の間には空いた皿が山積みだ。
「何だ来須、お前あまり食べてないなー」
「・・・俺は、必要な分しか食べない」
若宮の隣では、来須が静かに料理を味わっている。
「っていうかさぁお前、せっかくのパーティなんだから、もっと明るくしろよなー。
・・・そうだ!」
若宮は、パーティグッズの入った箱の所へ行って、ある物を持ってきた。
「お前、これかけてみろよ」
それは、丸メガネに鼻とヒゲのついた、いわゆる鼻メガネ。
来須は、何も言わずそれを受け取ると、無表情のままそれをかけた。
滝川が、ポロリと箸を落とす。
若宮の顎が、かくんと落ちる。
周囲に、笑いたいのだが、笑ってはいけないような雰囲気が広がる。
遠くで、ガシャーン、と何かの落ちる音がした。
「いやぁーっ!、そんなの、来須センパイじゃないーっ!」
新井木が泣きながら走り去っていった。

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「なー、千翼長になるのって、難しいのん?」
加藤が狩谷の肩の階級章を見ながらつぶやく。現在狩谷は百翼長である。
「まぁ、なれないことはないが・・・こないだ百翼長になったばかりだからな。ちゃんと仕事したって当分先だよ・・・どうして?」
狩谷が答えると、加藤は大きくため息をついた。
「はぁ・・・ってことは給料3ヶ月分か・・・ウチがもっと、やりくりせんと・・・」
小さくつぶやきながら、わざとらしく雑誌の切り抜きを目の前に落とす。
某有名宝石ブランドのクリスマス限定ペアリング。
狩谷は、それを見ないようにしながら、この日のために買っておいた安っぽい指輪をこっそりポケットにしまった。

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「いいかー、お前ら、クリスマスにカップルでイチャイチャしようなんて10年早いっ!オレが結婚するまでにクリスマスを二人っきりで祝うよーな奴がいたらオレが銃殺する!」
本田は既に酔いがまわっているようだ。
「協力・・・するわ・・・」
萌が、どこからか取り出した怪しい道具をテーブルに並べ始める。
「よく効く・・・おまじない・・・恋人同士が別れるように・・・」
そしてぶつぶつと、意味不明の呪文を唱え始める。
「おいおいおいおい!そういう意味じゃなくってっ」
本田が慌てて道具を片づけ始める。
「あ、」
萌が、驚きの表情で本田を見上げた。
「途中で・・・止めた人には・・・不幸が・・・全部行くのに・・・」
本田の酔いが、一気に醒めていった。
一方その横では、坂上が、何を気にする風でなくスイカをむさぼり食っていた。
芳野はさっきから酔いつぶれたままだ。

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「誰も来ないクリスマスって経験したことある?最低よ」
原は、グラスを傾けながら愚痴をこぼす。グラスの中身はオレンジジュースなのだが。
「経験はありませんが・・・心情的には理解できます」
壬生屋が相づちをうつ。
「大体、クリスマスに勝負をかけるからには、それ相当の気合いがなきゃ駄目。中途半端なのは、かえって嫌われるだけよ」
「それでは・・・どうすればいいんでしょう?」
壬生屋は興味津々で身を乗り出す。
「プレゼントなんて、悩んでるだけ時間の無駄。男が一番欲しいモノはね、やっぱり・・・」
「やっぱり?」
「自分のカラダにリボンかけて、『プレゼントはわ・た・し』これで決まりよ」
壬生屋は真っ赤になってうつむいた。
また「不潔です」とか言われるかな、と原は少し心配したが、その時壬生屋の考えていたことは、瀬戸口のようなモテる男はそんな手にひっかかってくれるだろうか、ということだった。
とりあえず、今日の下着は勝負下着なのだが。

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「えへへー、サンタさん、ちゃんとくるかなぁ」
ののみは、窓の外をしきりに気にしている。
「ののみが良い子にしていれば、きっと来るぜ」
田代がののみの頭を撫でながら笑う。
「かおりちゃんのところにもくるよね?」
「俺は、お前ほどいい子じゃないからな・・・」
「ううん、ぜったいにくるのよ。かおりちゃんのほしがってた、ウサギさんのおっきなぬいぐるみもって」
田代は慌ててののみの口をふさぐ。

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「さて、これでプレゼントは全部揃ったか」
瀬戸口が、大小さまざまな包みを確認しながら、大きな布袋に詰めていく。
「まったく、大変でしたよ。それとなく気づかれないように、みんなの好みを聞き出すのは」
善行もそれを手伝う。
「でも、そもそもの言い出しっぺは委員長だろ?」
「まあね。でも、この殺伐とした世の中に、娯楽も必要でしょう」
「ま、俺は女子供が喜ぶイベントなら、どんなのだって大歓迎だ。さ、それじゃ行くか」
瀬戸口は準備万端のようだが、善行は釈然としない様子だ。
「ところで・・・この格好は何とかならないんですか?」
「どこが?」
瀬戸口は、自分の服装を改めて見直してみる。赤地に白の縁取りの、典型的なサンタクロースの格好だ。ちゃんと綿のヒゲまでつけている。
「サンタクロースが、これ以外の格好をしていたら、そっちの方が変ですよ、委員長」
「いや、あなたじゃなくて」
善行は、自分の格好を指差した。
トナカイの着ぐるみ。真っ赤な鼻つき。
「よく似合ってますよ」
改めてこみ上げてくる笑いを堪えながら、瀬戸口は言った。
「司令、いや委員長としての威厳が・・・」
「洒落でナース服まで着るような人が何言ってんですか。それとも、ミニスカサンタ服の方が良かった?」
善行は、それ以上何も言えなかった。
「さーて、それじゃみんなに愛をふり撒きに行きましょう!」
意気揚々と小隊隊長室のドアを開ける瀬戸口。善行はやれやれ、といった顔でプレゼントの入った布袋を担ぎ上げる。
「メリークリスマス!」
たのしい時間は、まだまだ続きそうである。
おしまい。

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あとがき
ラストはまたまた瀬戸善(笑)。というかこのエピソードから思いついたのでした。瀬戸善はこういう雰囲気が一番好き〜(暴走中)
お約束&全員ネタ第2弾。やっぱ一番気になるのは鼻メガネでしょう。想像だけでかなり笑えます。クリスマスということで、公式カプネタが多いですが、その中では茜&森が好きかも。でもあまり上手く書けない・・・とほほ。
2001/12/24 ゆきる( yukiru.s@anet.ne.jp )
(2001/12/25 委員長権限)

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